2012年12月13日木曜日

追手門学院大学創立50周年記念講演会「自校教育のいま」


出張報告書(別紙詳細版)

所属・職・氏名
教務課 係長 村山孝道
日時・場所
2012/12/8(土) 追手門学院大学
テーマ
追手門学院大学創立50周年記念講演会「自校教育のいま」
目 的
京都文教入門2013検討のための情報収集
FSDプロジェクトの学生2名を引率
プログラム
講演
①「自校を知り、自分を見出し、未来を考える -自校教育のすすめ-」
 寺崎昌男氏(立教大学)
②「それぞれの大学で創るそれぞれの自校教育-全国大学実施状況調査をふまえて-」
大川一毅氏(岩手大学)
③シンポジウム
座長:梅村修氏(追手門学院大学)
参加者数約150名
 追手門学院大学の創立50周年記念事業の一つとして自校教育のシンポジウムが開催された。京都文教入門2013の検討に向けてFSDプロジェクトの代表および副代表の2名を帯同した。
 高等教育会の大御所、寺崎氏がご自身の長い経験と深い高等教育への愛情に裏打ちされた「物語」を、大川氏は大学評価学位授与機構の全国大学実施状況調査のデータに基づいた網羅的且つ分析的な報告をされた。以下はその要点。

1.講演① 「自校を知り、自分を見出し、未来を考える -自校教育のすすめ-」
寺崎昌男氏(立教大学)
 「JALパック(上智・青山学院・立教)」と呼ばれる3大学の一つとしての立教大学。男子の半分は早稲田を目指し、女子の半分は慶応を目指し手が届かなかった学生。いわゆる、在学生の多くが「不本意入学者」であり、且つ、JALパックのいずれでも良かったという学生達(つまり立教大学へのアイデンティティはほとんど無い)。それは、寺崎氏が1997年に「思想の現代的状況4『大学論を読む』」という教養科目の講義を開講した時に初めて知った現実であった。受講者45名程度の小講義。一般論としての「大学論」として開講したが受講者から全く反応が無く、4コマ目に急遽「立教大学論」(いわゆる自校教育)に切り替えた。その中で、立教大学の歴史、戦時の失敗、ハラスメントの恥部などを話された。特筆すべきは「私と立教大学」という、講演者に非常に引きつけたテーマ。受講者の反応はすこぶる良く、多くのコメントが寄せられた。「20年間授業をやっていて、これほどの反響を得たのは初めてであった」とのこと。
 この他、東北大学、獨協大学、桜美林大学での自校教育の経験を経て、得られた一つの確信は以下である。
  1. 「満足」とは「欲して」いて初めて得られる
  2. しかし彼らは欲していたわけでない
  3. なぜならJAlパック(等)でよかった
  4. ではなにか
  5. 安堵したのだ。満足ではない。
  6. 逆に言うと、全国の300万人ぐらいが安堵していないという事実
  7. 東大の新入学生3200人。彼らだって不本意。教育→文学→法学→医学→理3
  8. 日本全国の大学は不本意入学生で溢れかえっている。
  9. 自校教育に必要なのは「安堵を与えることである」
 もう一つ、日本の大学が米国の大学に比べて高校生達に大学のことを知らせていない、というお話をされた。小学校から高校まで米国で過ごしたご自身の甥が40日間自宅に滞在した際に気づかれたことである。彼は参考書などもっておらず、持ってきたのは一般の教養書と専門書。自分が行きたい大学のことを良く知っている。大学の情報にアクセスし自分に不足している能力を事前に調べ、高校時代に補う努力をしていた。彼の場合は読書経験とボランティア経験の不足を事前に指摘されたのでそれを補う努力をしていた。それに比べて日本の高校3年生は、参考書の勉強、受験勉強のみであり、大学は偏差値順に並んだ大学のリストを見る。個別の大学をほとんど知らない。これは制度の問題、大人の責任。
 また、 「満足度、帰属意識、自校愛」が高まることで大学は「生涯の故郷」となりえるという点について言及された。自校愛を持たれる大学、「いつでも立ち寄る『泉』」を目指すアプローチとして、シニアへの大学開放についても触れられた。シニアに大学を開き、近隣の住民、卒業生などを招き入れる戦略のことで、立教大学で大当たりした「セカンドステージ大学」の事例を紹介された。これはOECD加盟国において異様に低い日本の社会人学生比率(2.7%)へのアプローチになる。この率の低さは教育文化の違い、軍役との関係、授業料の私費/国費の違いなどが関係していて一概に大学だけの責任とは言えないが、それでも世界的に見て例えば1回生の授業の99%が18歳か19歳というのは異常である、という認識を持つべきである、とのこと。多様な年代が教室の中にいるべきである。特に、自校愛をもった卒業生などが教室に常にいる、というような環境を創ることは非常に重要である、というお話は非常に印象的であった。
2.講演② 「それぞれの大学で創るそれぞれの自校教育-全国大学実施状況調査をふまえて-」
大川一毅氏(岩手大学)
 科学研究費補助金で実施された「大学における自校教育の導入実施と大学評価への活用に関する研究」を題材に、報告をされた。
  1. 自校教育を実施する大学が増えている理由
  1. 不本意入学増加
  2. 大学への愛着の欠如
  3. 就学意欲の喪失
  4. 質保証が求められる環境の変化
  1. 人材像や能力の明示
  2. ミッションの明確化
  1. 大学のパワーを集約しきれぬ物足りなさ・歯がゆさ、大学の活力の欠如
  2. 公立の小学校の卒業生の感覚
  1. 傾いたら卒業生が寄付するというより行政のすることでは?という意識。
  2. 愛着は無いわけではないが強くはない
  1. 自校教育の狙い
  1. その大学で学ぶことの意味
  2. 自らの居場所としての認識
  3. 愛校心の醸成
  4. その他
  1. 最近では「健康・安全」「キャリア教育」「人権教育」「地域論」「問題解決学習」「卒業生の講話」など、直接的に自校教育とは言えないものも必要に駆られて入ってきている。
  1. 初年次教育の集計・累計
  1. 初年次教育必修化が進んでいる。48%(ただし初年次として。自校教育15コマを必修ということではない)
  2. 授業の実施形態は講演会単品から15コマの「フルパック型」まで様々
  3. リレー式が多い 82%
  4. コーディネーターが存在(授業計画の企画、教員公使館の連絡調整、シラバスの作成、成績評定、授業実践)。負担がちょっと重い。過度の負担が集中する傾向。
  5. 最大公約数的な自校教育は下記
  1. 授業ガイダンス
  2. 建学の精神
  3. 自学の歴史(戦前期)
  4. 自学の歴史(戦後教育改革・新制大学)
  5. 自学の歴史(大学の発展・拡大)
  6. 学部の歴史(前身校史も含む)
  7. 大学キャンパス(建築、遺跡、自然)
  8. 自学における様々な研究活動
  9. 学長・学部長の講話
  10. 地域と大学
  11. 卒業生講演
  12. 大学と関係する人物
  13. 学生論
  14. 大学の現況と将来像
  1. 初年次教育の特徴
  1. いろんな人を巻き込んでいろんな展開をすることも可能
  2. 大学の職員が係わることも可能
  3. 職員参画角形授業の事例として広島大学「広島大学のスペシャリスト」
  1. 職員が憧れの仕事になってきている
  1. 卒業生との関わりが密になる特徴も
  1. 「一橋大学の歴史」では同窓会組織如水会が授業内容の資料調査・授業の企画運営、授業実践にあって多大がな協力をしている
  1. その他の事例
  1. 大分大学「大分大学を探ろう」
  1. 学生がテーマを設定して研究→講義
  1. 北海道大学「北大エコキャンパスの自然と歴史」
  1. なんのためにやるか
  1. 理念の理解
  2. 歴史
  3. 帰属意識
  4. 学習意欲の促進
  5. 授業だけで愛校心など生まれない。むしろ、自らの居場所、学び、生き方のはじめの一歩を提供する目的
 冒頭に追手門学院大学学長が「今不満な者は未来も不満。永遠の不満のスパイラルになる。今、幸福を見つけられる者は未来も幸福になる。」とおっしゃったのはとても印象的であった。寺崎氏が「現在は日本中が不本意大学生であふれている。東大の文は東大の理、理は法、法は医、医は理3に対して不本意と言っている。一方理3なら幸せかというと必ずしもそうで無い。『たまたま自分の偏差値にあうところがここしか無かっただけ』と平気で言う。」という話とシンクロする。偏差値が高ければ「満足度、帰属意識、自校愛」が増すかといえば必ずしもそうではない。逆に、「今幸福をみつける」手助けをすれば「満足度、帰属意識、自校愛」は生まれる。中小規模である逆メリットを活かし、大手より高い「率」の学生に「様々な仕掛け」を行い、「今の幸福」を感じてもらう。正課内外あらゆるリソースを駆使して仕掛ける。それこそが偏差値が高いわけではない、中小規模の大学の勝負所といえるだろう。
 次年度京都文教入門への示唆としては、まず、「最大公約数」的な自校教育は、帯同した学生は「聞きたくない」という反応であり、過去3年の経験でも私自身「効かない」と感じた。いくつか受講生に寄り添った特徴的な他大学の取り組みが紹介されていたが、その中でも本学の、学生が企画・立案・運営に深く携わり、実際に教壇に立ち、京都文教の魅力や使えるリソースを先輩(生き証人)が後輩にダイレクトに伝えるという取り組みは、極めて特徴的で、異彩を放っているように感じた。一方、「楽しかった」という印象で終わりかねない、イベント化してしまう、年によって当たり外れが生まれる、というリスクを再認識し、「背骨」となる部分の強化が課題であると感じた。「背骨」として据え置くべきは、やはり大学の歴史であり、建学の理念であり、建学者の人間味、キャラクターの紹介だろう。これらは「聞かせる」ことが非常に難しいテーマであるが、なんとしてでもやるべきであると思う。「満足感より安堵感」の部分を提供する必要がある。
 最後に、寺崎氏が「自校教育は1年の春はなかなか効かない。せめて1年の秋にやるべきでしょう。少しキャンパスで過ごし、見聞した後の方が納得度が増す。」という話は非常に印象的であった。今後の検討課題となり得る。また、自校教育は決して「京都文教入門」1科目の話では無く、全学のあらゆる場面で、全構成員が意識してこそ初めて「自校愛」となり、卒業後も来てくれる「泉」となる。そしてそれが即ち大学の存在意義となり、大学の存続の力となるだろう。正課内外、あらゆる部署や施設、あらゆる場面、人と人とのつながりの中で実現しなければならない。
 そのための一つとして、教職員が自校愛を持つこと、ESの向上を実現すること、「やりがいのある職場」を作ることが必要である、そういう風土を作ることが大切である、と感じた。
以上

2012年12月12日水曜日

第8回 関西大学FDフォーラム


出張報告書(別紙詳細版)

所属・職・氏名教務課 係長 村山孝道
日時・場所2012/11/7(水) 関西大学
テーマ第8回 関西大学FDフォーラム
目 的学生FDのWA!!!!の「広報」チームの学生を引率し、研修企画に役立てるため
プログラム講演
「コミュニケーション再考 -分かりやすい「伝え方」-」
 大島武氏(東京工芸大学芸術学部教授)

参加者数約80名




 出席者の7~8割は関西大学の教職員と一部学生であった。講師の大島氏は映画監督の大島渚氏のご子息。NTT社員から脱サラし、2004年から大学教員になられた。大島氏は、偏差値でいうと「全国の大学生の上澄み」が集まるNTTで勤務されていたが、人事研修などを企画運営する中で「上澄み学生」のコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力の無さに驚かれ、「あの手この手」で社員教育をされた。それが後の教育者人生のきっかけとなったとのことである。



1.講演 「コミュニケーション再考 -分かりやすい「伝え方」-」
 まず、コミュニケーションは所詮記号のやりとりであり、誤解があって当たり前であり、その例えとして、「いぬ」という言葉からのイメージをフロアから聞かれると、「動物」「ワンとなく」「家庭のペット」「可愛い」「4足歩行」「労働力」「かまれると痛い」「居る居ないの居ぬ」などと数多の回答があった。種類だけでも多様であるが、それだけでなくさらに、例えば四足歩行、動物、ワンと鳴くなど客観的・中立的に「イヌ」をとららえる人、もいれば、可愛い、家庭のペットなど、好意的に捕らえる人、逆に噛まれると痛い、などネガティブに受け止める人もいる。これが「いぬ」というのは所詮記号であり、それを発した人の立ち位置や、前後の文脈で意味はずいぶんと変わる、というのがコミュニケーションであると紹介された。曰く、「空気を読む」というのは「21世紀の大発明」で、この「空気を読む」という言葉のおかげで21世紀人は20世紀の人間のように「コミュニケーションギャップはコンテキストの相違である」という難解な言葉を使わなくてすむようになった、とのこと。これはおもしろい解釈である。

 さて、氏は2003年ベスト・エデュケーター・オブ・ザ・イヤー最優秀賞を受賞(全国大学実務教育協会)されただけあって、お話がすばらしく分かりやすく、驚いた。 その「わかりやすさ」の秘密は講演中の「分かりやすく話すための8箇条」に隠されている。



第一条 大枠から話す 

相手の知りたい順で考える。 概要→詳細 、 結論→理由など。

第二条 具体的に話す 

曖昧さは誤解のもと。ニュアンスで「察してもらう」ことを期待するのはバツ

第三条 話を構造化する 

「微妙」な話はしない。あなたが「微妙」なことは聞かされる方はもっと微妙。なんでも図にできる。「図にかけない話はするな」by久恒啓一氏
プレゼンテーションの練習として、なんでも「3つの話」にとして構造化する訓練がある。

第四条 自信を持って言い切る 

時にはリスクも伴う。しかしたとえば自身をもって言い切ってくれない医者にかかりたいと思いますか?という話。

第五条 相手の反応に会わせ、ゆっくり話す

話しては知っていることを話す、聞き手は知らないことを聞く。熊本大学の授業アンケートでは「話が遅すぎる」というクレームはゼロ。最多は話が早すぎるというクレームとのこと。

第六条 相手の土俵にたって話す

そもそも「わかる」とは認知科学でいうと外からの新しい情報が自分の中の古い情報と結びついた、マッチングした時に「わかった」と感じる。なので、わからせるには結びつけなければいけない。学生に対して著作権と著作隣接権の話の時に、「美空ひばりがりんごおいわけを歌っただろ」ではだめ。無理してもエグザイルを使う。

第七条 相手になじみの無い言葉は使わない

たった一語で印象は変わる(決まってしまう)。人は話の中に「自分の知らない言葉」がでてくるとそれだけで不快な気持ちになりやすい。自分の専門を長くやっていると相手はこれはわからない。ということがわからなくなる。)

第八条 タイムマネジメントを常に意識する 

時間というのは相対的。講演の90分は耐えられるが、結婚式の乾杯の挨拶7分はとうてい耐えられない。予告して守る。「相手の時間を大切にする」姿勢も「伝える」ことの要素の一つ。




 上記をワークを交え、且つ大変分かりやすい例え話を一つ一つにつけられたのが印象的であった。全て重要であるが、特に教員は年齢差を考えずに古いネタを使い、第六条や第七条をよく破るとのこと。「たった一言で印象が決まってしまう」というのはその通りで、モチベーションが低い層ほどその傾向は強い。京都文教入門のような必修科目ではこの失敗をすると「全く聞いてくれなくなる」ということがよくある。
 また、印象的な指摘の一つに、このようなコミュニケーションのセミナーは社会人は非常に興味を持って熱心に受講するが、大学生はあまり興味を持ってくれないとのこと。それは、社会人は嫌いな人、苦手な人ともコミュニケーションをとらなければならないので必要に駆られているが、大学生はそもそも自分と合わない人とは話さないのでコミュニケーションに困る、ということが非常に少ない、ということであった。これは大変問題で、やはり厳しいやりとり、言いにくいことを言い合うやりとりなどの経験が必要である。しかし、世間の大学でここが弱い、ということであれば、本学は小規模メリットを生かし、経験の場を種々提供して経験率を上げ、競争力を高めるということも可能ではないだろうか。
 今回、12月の「学生FDのWA!!!」に向けた勉強をかねてFSDプロジェクトの学生4名を帯同した。授業としてのわかりやすさ、スムーズさに大変驚いていたことが印象的であった。なお、講演終了後の質疑の際に計4名の質問があったが、その内3名が本学の学生と職員であり、本学FSDプロジェクトの学生の意識の高さ、貪欲さが際立っていた。


以上













第29回 私立大学職員「人間ネットワーク」  大学の使命 第2弾 『大学職員道-大学を変える、職員が変える-』


出張報告書(別紙詳細版)

所属・職・氏名教務課 係長 村山孝道
日時・場所2012/11/24(土) 中部大学 リサーチセンター
テーマ第29回 私立大学職員「人間ネットワーク」
 大学の使命 第2弾 『大学職員道-大学を変える、職員が変える-』
目 的・同業他社との交流ネットワーク構築
・SD研究
プログラム第1部 基調講演
「大学職員が『学ぶ』ということ」
 中元 崇 氏 (京都大学)

第2部分科会 「2」
「自己の学びや成長を職場に生かす」

参加者数約30名


<まとめ>
 
(1)基調講演 中元 崇 氏(京都大学)  「大学職員が『学ぶ』ということ-大学院とSD-」
 京都大学職員で現在京都国立近代美術館に出向中の中元氏は、本年4月から名古屋大学大学院教育発達科学研究科の博士後期課程(教育マネジメント)に通われている。今回の人間ネットワークの全体テーマ「大学職員道」の「道」の一つとして、大学院進学という選択肢の概要、強みや弱みについて、詳細な報告をいただいた。全体の論旨は、1.おとなの「学び」を考える2.なぜ大学職員が学ぶ必要があるのか3.大学職員は何をまなぶのか4.大学職員は大学院でどのように学ぶのか5.大学院での「学び」に関する諸問題、である。以下、主な論点。

  • おとなの学び
    • おとなの「学び」は学ぶ目的・動機が明確で「学び」の質が高い。一方、環境(職場・家庭など)との関係の難しさがある。
    • おとなの「学び」は「教育機関を利用する学び」と「利用しない学び」がある。後者の方がウェイトが高い。
    • サテライトキャンパス、教育訓練給付制度、特別な入試制度等の普及により、大学院の社会人の利用は活性化している。(社会人大学院研究会 2003)
    • 社会人大学院が注目されている理由は、①企業内評価から企業外評価へ②若い世代の意識の変化(専門職志向)③企業内教育の限界の3つがある。(山田 2002)
    • 社会人大学院進学者の47%は同じ職場で勤務を継続、53%は異なるキャリアを展望している。(吉田 2010)

  • なぜ大学職員が学ぶ必要があるのか
    • シングルループからダブルループへ。絶えざる課題の解決の必要性が増し、入職時のスキル+OJTでは追いつかなくなってきた。
    • 「ジョブ」ではなく「身分」として雇用してきた。
    • あくまで教員の補助業務という位置づけとしての定型的業務(補助員・事務員)から、調整的業務(教育研究支援、大学運営)、分析型戦略的業務(大学経営、業務企画)、創発型戦略的業務(大学全体の目標設定・達成、組織での教職共同等)へとパラダイムが移り変わってきた。

  • 大学職員は何を学ぶのか
    • K・K・D(勘・経験・度胸)のスタイルからの脱却のため。
    • アカデミックな研究の基本的なコンセプトや方法論(お作法)を学ぶ。
    • 「問題把握→課題設定→政策・企画立案→提案・合意形成・実施」というプロセスは大学院教育、特に論文執筆のプロセスと酷似。親和性が高い。
    • 親和性が高いことから、大学院での学びが実務に転移できやすい。
    • 一方、大学院での学びはOJTから一定程度距離があり、「理念的」であると定義され(福島 2009)、大学院の学びだけでは職務遂行の全てをカバーできない。
    • 大学史・大学論は研究課題としてある程度「体系的」に学ぶことは意味がある。
    • 大学院での研究歴は「教員と同じ土俵で議論」する上で有利。

  • 大学職員は大学院でどのように学ぶのか
    • 大学職員の受け入れを図っている大学院は下記の5大学
      • 東京、名古屋、広島、桜美林、名城 
      • その他は公共政策系、経営管理系の大学院に学ぶ職員もいる
    • 年齢は早くて25歳、遅くとも40代前半。大学院の効果は遅効的なため遅すぎても困る。しかし早過ぎると「実務との往還」効果が得られない。
    • 研究テーマは幅広い。大学院の研究は「理念的」で、実務に即効性があることは少ない。どちらかと言うと、「研究作法(問題把握→課題設定→政策・企画立案→提案・合意形成・実施)」の修得の意義が大きい。

 大学院進学は多くの大学職員にとって、金銭面、業務面、家庭環境面等々、諸条件が整わなければなかなか踏み出せない、「ハードルの高い」一歩である。OJTと一定程度距離のある「学び」のスタイルであり、実務即効性は低いが、研究作法の修得は職業人のフレームワーク的スキルとして意義深い。

(2)グループディスカッション 「大学職員道 ー大学を変える、職員が変えるー」
 
  Aさん・・・柔道1年、剣道1年、弓道1年、相撲3ヶ月、なぎなた1年・・・で30年
  Bさん・・・柔道30年

 講師の中元氏より、どちらが武道家と感じますか?という問いがあった。ジェネラリストとスペシャリスト、というふうに言い換えられるかもしれない。基本的には大学職員はAさんのような職業スタイルであり、それゆえに世間一般から「大学職員って何をしてるの?」と思われる。「大学職員道」を考えるということは、「大学職員」という職業の特徴(他業種との差異)を把握し、その強みを活かすということに他ならない。その上で、「道」を語る上では何か一つ、得意なものを作り、狭く・深く掘り下げなければならない。
 2班の「道」研究の成果は以下のとおりである。

Step1  「大学職員という職業は世間からどう見られている?」
  • 用務・雑用
  • 公務員に近い
  • 役所的
  • 気楽
  • 寝ている
  • 軽い
  • 執事(小間使い)
  • 保護されている
  • 楽そう
  • 甘い(一般企業の社員より下に見られる)
  • そもそも興味なし

 → この結果に対してディスカッション。
  • 事実ではない。
  • いや、あるていど事実ではないか。
  • 悔しい

Step2 「では大学職員はなぜそのように見られるのか?大学職員という職業の特徴は?」
  • 売上とノルマが無い
  • 教育の現場である。人が相手である。
  • 怖い仕事といえる。(他者の人生を左右、無資格者が種々指導をする)
  • 保護されている
  • 給与が安定している
  • 企業にくらべ気楽である
  • NPOである

→ この結果に対してディスカッション。
  • 他の職業に比べ非常に重要な職業である → 本当にそうだろうか?
  • 他の職業に比べミスが許されない緊張感を伴う仕事である(他者の人生を左右) → 本当にそうだろうか?原発職員は?国家資格の専門学校は?医療従事者は?
  • 気楽とみられるがそんなことはない → 本当にそうだろうか?来月の自分の職に不安を持ているか?来月の給料がいくらになるか不明な人はいるか?

Step3 「ではStep2は特徴として、その強みはなんだろうか?」
  • 売上とノルマが無い
    • チャレンジできる。トライアンドエラーができる。夢を見られる。
  • 教育の現場である。人が相手である。
    • 異文化・異世代交流がある。若くいられる。(同級生に若いと言われる率が高い)
  • 怖い仕事といえる。(他者の人生を左右、無資格者が種々指導をする)
    • やりがいと言える。社会的存在意義を仕事の中で意識できる。
  • 保護されている
    • 社会の課題解決など、崇高な目的のためにチャレンジできる。あまりコストや利益を考えなくて良い。
  • 給与が安定している
    • 安心して最低限の生活プラスアルファの社会人生活を送れる。
  • 企業にくらべ気楽である
    • 自分のためのみならず、社会のため、他者のために貢献する意欲、ゆとりが生まれる。
  • NPOである
    • 他者への貢献を通じて自らの成長を実現できる。

→ この結果に対してディスカッション。
  • こうして見ると大学職員は魅力的な職業だ
  • しかし現実は公務員との併願の滑り止め職業
  • チャレンジャーの集まる職業とはなっていないのでは?
  • 最低限の仕事をこなして17:00に帰る職員(ミニマム職員)も大勢いる
  • 社会からの大学職員の評価は「ミニマム職員」が作っているかもしれない


Step4  「とはいうものの、大多数の職員がその特性を理解し強いを活かしているうか?」
  • 活かしているのはごく一部ではないか
  • 人にもよるが、同時にどの部署にいるか、その部署がゆとりがあるかないか、家庭の環境(子育て)の状況がどうか、など、一概には個々人の意識の問題、人格の問題とはいえない。
  • 活かそうにも生かせない職場もありえる。
  • 「風土」による。
  • 性差もけっこう大きく影響すると思う。
  • 自分の役職にもよる。

Step5  「では大学職員が社会から評価され、チャレンジャーが集まる活発な職業になるにはどうしたら良いか → アクションプランづくりワーク」
  • 目的(遠くのゴールイメージ)
    • 「給料以上に大学職員を使い切る」
  • 目標(成功基準)
    • 強みをわからせる
    • 環境の整備(制度を完成させる)
    • 風土を作り上げる(やりたいことを実現出来る制度)
    • モチベーションを上げる
    • 組織のコミュニケーション力を上げる
  • 行うべき活動・方法
    • 強みをわからせる
      • 募集の時から大学職員という職業の「特徴」「強み」を公示した上で求めている人材を明確に示す。 → チャレンジャーを集める
      • 既存の職員は例えば上記募集・採用および新人研修を担当する(Teaching)ことを通じて「特徴」「強み」を理解させる。
    • 環境の整備(制度を完成させる)
      • プロジェクト型業務の制度を作る
      • コモンスペース(コーヒースペース)を作ってアイデアの創発性を高める
    • 風土を作り上げる(やりたいことを実現出来る制度)
      • 飲みニケーション?
    • モチベーションを上げる
      • 学生からありがとうと言われる → 先にありがとうを言う
    • 組織のコミュニケーション力を上げる
      • 一日一笑制度を実施する

 まとまった時間をとって、様々な大学の職員達と改めて「大学職員」という職業を振り返り、議論し、再発見した機会は大変貴重であった。特徴と強みを理解し、強みを活かして職場の活性化、あるいはこの職業自体の活性化に貢献をしたい、と改めて感じた。


以 上